クリエイティブ業界で働く父親との対談シリーズ第二弾では、サーシャ・ラムをゲストに迎えてお送りする。出会いは約13年前、私がノーティカのアート部門で働いていた頃、彼がニットデザインチームに加わったのがきっかけで交流が始まった。クリエイティビティに対する情熱と、先延ばし癖をアートへと昇華する得意技を共有する私たちはすぐに打ち解けた。彼は10年前ニューヨークを離れ、現在は妻と10歳と15歳になる2人の息子とともにオースティンに住んでいる。
サーシャのキャリアジャーニーは刺激的であると同時にダイナミックだ。若い頃はスタテンアイランドのデリで商品補充係として働き、スケートカルチャーのワイルドな世界をナビゲート。そして現在はアウトドアアパレルブランドの製品管理部門バイスプレジントを務めている。彼を一言で表すとすれば、オースティンを代表するクールでファッショナブルな父親といったところだ。サーシャが歩んで来た道は広範にわたり、スケートボードに乗る猫のように予測不可能だ。
インタビューへ移る前に、写真(と翻訳)を提供してくれたマドカと、このプロジェクトを素晴らしいものにしてくれたサーシャ、テレサ、ヘンリー、ウォルターに改めて感謝したい。
あなた自身とあなたのクリエイティブなバックグラウンドについて教えてください。
私は現在、ハウラーブラザーズというメンズのアウトドアアパレルブランドの製品管理部門バイスプレジントを務めています。デザインと生産を統括していますが、本業は服飾デザイナーです。生まれと育ちはニューヨークですが、10年前に家族で西部に引っ越し、今はテキサス州オースティンに住んでいます。
9歳のときからずっとスケーターでした。実際にやめたのは怪我をした6、7年前です!スケートカルチャーに身を置くことで、あらゆるものをよりクリエイティブかつアーティスティックな視点で見る術を学びました。高校と大学時代はアーティストとして活動し、大学卒業後はアパレルのプリントスタジオに就職。服のデザインを学ぶようになり、工場やサプライヤーを訪ねて世界中を旅する職にも就きました。どんな些細なことでも、その背景にはクリエイティブなアイディアが存在しています。
一番最初に得た仕事は何ですか?
家の近所にあったスタテンアイランドのデリの商品補充係です。クリエイティブな分野での初めての仕事は、ロンドン・コネクション・スタジオのアーティストです。
今の仕事を始めたきっかけは?
スケーターにとって服装はとても重要です。ルールはありませんがスタイルがあります。身につける服によって、そのスケートスポットで受け入れられるかどうかが決まります。そのため服が持つ力を常に意識していました。自分のアートスキルをアパレルに反映させることは理にかなっていると思いました。
大学卒業後したいことが分からなかったんですが、幸運にもマンハッタンの34丁目にあるアパレルのプリントスタジオで職を得ました。そこで働いていたのはアパレル業界でのラットレースから一旦距離を置いていたシニアデザイナーたちです。一日中アート制作に励んでいた彼らから服のデザインについて多くを学び、その後この業界でジュニアレベルの職に就きました。以来、それぞれ違うレベルのスキルを学び、そこからキャリアを積み上げていった感じです。
最も誇りに思っているプロジェクトは何ですか?
自分に厳しくなりすぎないように達成可能な目標を設定するようにしています。特に誇りに思っているプロジェクトとして、初めて世に出た自分のプリント(ロカウェアのために制作したものです)、DQM Holiday 2016コレクション、数年前に携わったノーティカのランウェイコレクション、そしてハウラーブラザーズとのこれまでの歩みなどがあります。その昔、スケーター仲間のスケートビデオ「Lurkers」のためにTシャツを作ったんですが、実際にそれを着ている彼らを見るのはものすごくクールでしたね。最近では私の住む地域をサポートするためにステッカーを作りました。
どのようにしてアイデアを現実のものにするのでしょうか?
現実世界における製品の用途を思いつく限り書き出します。その使用目的は何か?それを見た人の反応は?部屋やキャンバスに絵を描いているときでも、インスピレーションをテープであちこちに貼り付けてクリエイティビティの勢いを保つようにしています。次に、作ろうとしているものが何であれ、制作過程を模索し計画を立てます。洋服であればタイムラインと素材を理解し、キャンバスに絵の具を塗るのであれば、どのようなステップを踏めば、どういった仕上がりになるのかを考えます。簡単に事が進むと思わないことが重要です。価値あるものはそれなりの労力を要しますから。
どのような道のりを経て今に至るのか教えてください。
私が歩んで来た道は平坦ではありません。大小さまざまなアパレル企業で働いた後、私も妻もニューヨークでのラットレースにうんざりしていました。妻の実家があるオースティンを訪れるたびに徐々にこの土地に惹かれていき、偶然のEメールがきっかけで今の職場で働くことになったのです。この職に就いて約9年ですが、この年数はニューヨークのアパレル業界に換算すると一生分に当たります!
子供の頃、影響を受けた人はいますか?
尊敬していた地元の先輩スケーターたちは皆、自分のTシャツブランドを立ち上げようと画策していました。彼らのアイデアはものすごくエキサイティングで、いつか自分もやってみたいと夢見ていました。みんな自分でシルクスクリーンを刷っていましたね。そのTシャツを着ている人たちを見て世界で最もクールなことのひとつだと感じたのを覚えています。人を良い気分にさせる服を作るのは素晴らしいことであり、この道を選んで良かったと思っています。
小さい頃から絵を描くのが好きで、兄弟全員で漫画やコミック、アニメに夢中でした。両親は学者で、オペラやクラシック音楽、美術、文学に傾倒していたので私は芸術に囲まれて育ちました。
若い頃、近所にかっこいい年上の友達がいたのはラッキーでしたね。家に帰ると彼らが話していた映画や音楽などを書き留めていました!デール・キーオン、ジム・リー、マクファーレン、バリー・ウィンザー・スミス、ジャック・カービーといったコミックアーティストは私の初期のアイドルです。それからスケートボードにはまり、部屋の壁はお気に入りのブランドやプロスケーターのポスターに埋め尽くされていました。特にリック・ハワードとマイク・キャロルの大ファンでした。ヘンリー・サンチェスは私にとってレジェンドで、彼が出したものはすべて手に入れようと必死でした。
インスピレーションを受ける場所は?
本当にあちこち見て回ります。建築、インテリア、ヴィンテージ、そしてモダンアートが大好きなんです。インスピレーションはいつでも湧いてきますが、具体的なものを探すならまず過去に立ち返りヴィンテージを遡ることから始めます。
それは子供を持つ前と同じですか?
そうですね。今では息子たちが音楽、テレビ、映画、洋服など私が知らないことを教えてくれます。半分くらいは何でもないことなんですが、彼らがインスピレーションをシェアしくれるのはとても嬉しいです。
今となっては難しい、父親になる以前に行っていたことはありますか?
間違いなく友人や知人と過ごすことですね。現代の子供のスケジュールはとても複雑です。息子たちの友達を家に呼んだり遊びに行く予定を組むなど、私と妻の時間の大半がスケジュール管理に費やされます。好きなように子供達だけで遊びに行くというのは、ほとんど過去のことです。ニューヨークでは交通機関が発達しているのでまた違うかもしれませんが、どこへ行くにも車が必要で送り迎えが大変です。
典型的な一日を教えてください。
学期中は早朝5時45分に起床し、長男を陸上の練習に連れて行くことから一日が始まります。一旦家に戻ってコーヒーを飲み、愛犬のペッパーを散歩に連れて行きます。彼女はブルーヒーラーなので、できるだけ長く遠くまで歩かせるのがポイントです。それから仕事に向かいます。
仕事の内容は毎日違うので気が抜けません。息子たちのスポーツ(サッカー、陸上)の予定にもよりますが、午後6時頃に帰宅し一緒に夕食をとります。これは私たちが大切にしていることです。夕食の後は妻との会話を楽しみます。平日はトレッドミルで走ったり、家事やToDoリストをこなすようにしています。次男が寝たら妻と一緒にテレビを見ますが、週に1、2回はテレビを消して読書をします。そしてようやく眠りにつく。この繰り返しです。 夏休み中は少し変わりますが、だいたい同じです。
息子さんと一緒に何をして遊びますか?
映画やテレビを見ます。共通の趣味を見つけるのはいつも楽しいですね。ヘンリーとは週末一緒にスケートをしたり、ウォルターとは裏庭や地元の学校のグラウンドでサッカーの練習をします。
あなたの子供時代と同じですか?
共通しているのは一緒に映画を見ることぐらいでしょうか。子供時代は兄弟揃ってスケートに夢中で、いつも外で過ごしていました。父親が車でスケートスポットに連れて行ってくれたりしたのは本当にありがたかったですが、“一緒に過ごす”という感覚とは少し違いましたね。私たちはもう少し自立していました。ひとりの時間が好きでしたし、絵を描いたりクリエイティブなことをしているときは自分の世界に浸っていました。息子たちはひとりで過ごすのがあまり好きではないようです。
息子さんから学んだことは?
“上着を着ないと風邪をひく”、“室内灯を付けたまま走行するのは違法”など、大人が子供に言う昔の迷信を長男は払拭するのが得意です。彼は問題解決能力が高く、私とはまったく違うかたちで物事に取り組みます。それでは無理だろうと思っていた方法で彼は課題を解決し、私の目を開かせてくれます。スポーツであれ、学業であれ、彼らのあきらめない姿にはいつも刺激を受けます。
息子さんが今夢中なものは?
2人ともビデオゲームに夢中です(そうでない子供など今の時代いるのでしょうか...)。これは彼らが社会的交流を育む方法の一部だと受け止めています。次男のウォルター(10歳)はプロサッカーとアニメにはまっていて、長男のヘンリー(15歳)は洋服、音楽、コロンに夢中です。
息子さんに見せたい場所は?
息子たちと国外旅行へ出かけられるようになったのはとても嬉しいです。二人にぜひ見せたい場所のひとつにインドがあります。一般的な家族旅行先ではありませんが、私にはインド全土を旅した楽しい思い出があるんです。
今はもう存在しない好きな人、場所、ものを教えてください。
私の両親です。二人ともこの8年の間に他界しました。息子の成長や親としての私の功績を讃えてくれる彼らが側にいないのは残念です。
今は無きお気に入りの場所は1990年代のブルックリンバンクスです。あのバンクスポットは特別でしたね。
あと一番好きなのはレンタルビデオ屋です。家族経営の小さな店に行き、知らなかった映画やジャンルを発見し、カウンターの向こうにいるキャラの強い店員とおしゃべりするのが好きでした。チェーン店ではそうはいかなかったし、今のストリーミングではありえないことです。
あなたが息子さんの年齢だった頃と比べて、息子さんのために変わっていてほしいと思うことは?
“大人”として生きていくための術を、私の若い頃とは違うかたちで身につけてくれることを願っています。クレジットカードの管理、海外旅行、家の購入、税金の支払いなど私はすべて自分で学び、何事も手探りでこなさねばならず、それは大きなストレスでした。人生はあまりにも短く、年輩者が若者に対し重要なハウツーを出し惜しみすべきではありません。私と妻は学校で“学べない”ことを子供たちに教えようと努めています。
お互いを心から笑わせたのはいつですか?
私たちは常にお互いを笑わせようとしています。長男は間の取り方とユーモアが成熟してきて、スケートパークで変わった面白い人を見つけては共に笑い合っています。次男は陽気なキャラでモノマネがすごく上手です。
最近読んだ素晴らしい本は何ですか?
私はノンフィクションをよく読むのですが、最近マーク・シールの『 The Man in the Rockefeller Suit (原題)』を読み終えました。詐欺師についての物語で、自分の都合のいいように物事を解釈しそれを信じ込んでしまう話です。『Desert Oracle (原題)』で知られるケン・レインという作家が出したものは何でも読みます。
今読んでいる本があれば教えてください。
常に数冊の本を読んでいます。今はマイケル・ルイスの『 Going Infinite (原題)』、マギー・ブロックの『Kingdom of Prep: The Story of JCrew (原題)』、トルーマン・カポーティの『冷血』などです。
息子さんのお気に入りの本はありますか?
悲しいことにインターネットが普及し即座に満足感が得られるようになった時代、読書は彼らが好む娯楽ではありません!しかしヘンリーはジョーダン、メッシ、ネイマールなど、スポーツアイコンの伝記が大好きで、一方のウォルターは『Dog Man ドッグマン』や『グレッグのダメ日記 』シリーズがお気に入りです。
問う価値のある質問:
自ら進んで誰かを助けたのはいつですか?
繰り返す価値のある言葉:
アンドリュー・ウェザオールの “失敗するしないにかかわらず、やらねばならない”。
伝える価値のあるアドバイス:
関わる人すべてに優しく接しなさい。その人がどんな苦労や困難を経験しているのか、内情は分からないのだから。
最近ハマったことは?
抜け出せなくなるほど何かに夢中になることはしょっちゅうです。最近家族でイタリアへ行ったんですが、最終訪問地のナポリにあるスペイン地区 (Quarteri Spagnoli) でピザを食べたある夜、サッカーの伝説的選手ディエゴ・マラドーナの絵や写真、祠がいたるところにあるのを発見しました。私たちはマラドーナとナポリの繋がりを知らなかったのですが、その後私は彼の武勇伝についてあらゆる情報を集めました。弱者のチームを勝利へと導いた彼のストーリーは感動に値します。
これがないと生きていけないというモノは?
美味しいエスプレッソと素敵な靴下です。
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Translation: Madoka Okuda